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連続小説『水愛』(スイート)第2 話~時来たり~




002 時来たり

 水産会社の企業内ベンチャー企画から独立し株式会社水愛(スイート)を立ち上げて数年が経った頃、佐々幸太郎にとって衝撃的な出来事が起こる。東日本大震災だ。



 広島で自販機による飲料販売を手掛けていたに過ぎない水愛でさえも、印象に残る影響があった。震災後しばらくの間、ミネラルウォーターの在庫が急激に捌け、一方で入荷が止まってしまったのだった。水愛の在庫が捌けた理由は近所の方々が東日本の知人に送ったからというのは容易に想像が付く。事故当時は東京の水道水から甲状腺がんを引き起こすとされるヨウ素131なる放射性物質が検出され、乳幼児が摂取するに不適であるとの報道がなされた。



水愛の従業員も就業後にディスカウントストアやコンビニエンスストアを駆け回り、小さなお子さんがいる東京方面の友人に発送するという日々を数週間続けていた。飲料販売を手掛けている会社に勤めていることが知れているだけに、頼まれることが多いようであった。幸太郎もそんな状況下、できるだけの努力はした。しかし、水を入手することはできなかった。悔しく情けない思いをした。何のために企業人になったのか。こんな時に人助けができなくてどうする、と。



 幸太郎がそのような状況に置かれる中、まるで正反対のことをしてのけた男が居た。衛生用品や健康食品の通信販売を中心に業績を伸ばしていたヘルシードットコムの加藤だ。社長の加藤はただ一言「通信販売業は今や災害時の重要なインフラである。」と宣言するやいなや、大量のボトル水を自身の通販サイトに投下、多くのユーザーの満足と支持を得ると共に業界を震撼させた。その離れ業の裏には日頃からの物流の安定化に向けた取り組みが大きかったという。ベンダーとのコネクションは当然として、自社の倉庫・配送センターの拡充にも努めていた。ちょうど震災の少し前に九州の大規模倉庫が完成したばかりで、これが他の通販業者との決定的な違いとなった。この物流体制を目の当たりにした通販ポータルサイト大手のlackanが、配送業務をヘルシードットコムに委託してしまったほど、加藤のそれは強力だった。幸太郎にはあと何年掛かっても追いつけないことのように感じた。



 しかし、幸太郎はそこで挫けるような人物ではなかった。彼の会社は広島への恩返しという御旗がある。広島に有事が発生した際、せめて広島にだけでも貢献できるよう、幸太郎の挑戦が始まった。取り扱うべき商品はやはり水であろう。そのことは東日本大震災の時に体験済みである。次に水のベンダーの確保だ。有事の際の供給安定性を考えると、なるべく近いことが望ましい。目を付けたのは県境の山中で採水されている天然アルカリ水だ。これは数百メートルもの深さから汲み上げた地下水で、天然の濾過材である花崗岩で既に濾過されていることから加熱殺菌を必要とせず、水の美味しさを損なわずにボトリングできることが特徴で、近年通販で話題の商品となっている。2013年の秋、水愛立ち上げ時からの事業群が落ち着いてきたと判断するや、幸太郎は県境の地、金田に向かい、採水業者であるKNT株式会社の担当者と面談することにした。



 幸太郎は県境の社用車のマツダ・アテンザを自ら駆り、県境の山中へと赴いた。この車は社長が乗る車としては少々廉価ではあるが、水愛の規模からすれば適切な選択であったし、取引先への嫌味も無く、マツダのフラッグシップモデルなだけに貧相な感じもしない。なにより地元で製造される車であるし、幸太郎自身が最近のマツダ車の乗り味を楽しんでいた。2000年代初頭の同社製の車は腰高感があって、このような山坂道を走っているとドライバーが予測する車の挙動と実際の挙動が一致せず違和感があったものだが、今やまるで別次元だ。不快なロールはまるでなく、全体的にコーナリング性能が上がった。むしろ不自然なくらい鼻先が道なりに向こうとして驚かされる場面がある。横滑り防止装置が効いているのだろうか、タイヤが鳴くといったこともほとんど無い。

「真面目、だよな。良い仕事をしているよ。」
ハンドルを握りながらポツリと幸太郎は呟いた。この歳になると良い音楽を聴いていてもそう感じることがある。クオリティーから緻密な追い込み度合いを推し量れるようになってきた。そして自分もまた負けていられない、そう思いながら良い刺激を受けるのだった。そんなことを考えつつ元来運転好きな幸太郎にとっては何の苦もなく県境の採水業者、KNTに到着した。


 KNTの本社は同社の工場と同じ敷地内にあった。山間に現れた真新しく巨大な建物は簡素な鉄骨造りではあるが異様な存在感があった。県道から敷地に向けてスロープを上がったところに駐車場があった。来客者も従業員もここに駐車し、徒歩で正門を通る。車をパスさせるよりは遥かに保安上の問題が少ないであろう。



幸太郎がまだ水産で勤務していた頃、労働組合のイベントでタイヤメーカーの工場を見学したことがある。その工場は従業員の通勤車両が正門の中にあったわけだが、退勤の際のチェックがかなり煩雑であった。通勤車両が退出する度に保安員が後部座席とトランクルームあるいはハッチを開け、持ち出し物、つまり開発品や製品のタイヤ等が積まれていないかチェックするのであった。幸太郎が務める水産のほとんどの工場では駐車場が正門の外にあって、そのような煩雑さは無かった。そこは文化の違いなのだろう。タイヤメーカーと水産会社では車に対する思い入れが違う。車上荒らしや盗難対策としては正門の中に駐車場がある方が良い。その点、KNTのような山間部では車上荒らしも起きにくいだろうし、正門の外の駐車場で全く問題無いだろう。
 


 正門にてアポイントの内容を伝え、記帳を済ませた幸太郎は応接室に通された。通された応接室はシンプルだった。壁に飾られているのは画家の作品ではなく工場の鳥瞰図だ。本社兼工場というのはどこもこういった感じであるし、悪い気はしない。ほどなくして見るからに狡猾そうな50代半ばと思しき男性が現れた。体格は決して大柄ではないが、胸板をせり出しながら相手に迫るかのような威圧感があった。



堂本と名乗るその名刺には取締役営業本部長とあった。小さな会社によくありがちな節税対策と思われる。経営者兼使用人ということになり、営業本部長として違和感の無い給料分については経費と見なすことができる。実のところ幸太郎も社長兼企画部長であった。



 「佐々社長、本日は遠路はるばる社長様自らご足労頂きましてありがとうございます。本来であれば弊社の社長も同席するべきところ、大変失礼致します。」
 幸太郎は今や地元ではちょっとした有名人だ。そのような人物に来社され光栄だといった一通りのお世辞が終わった後、幸太郎は有事の際にボトル水を広島に提供できる体制を整えるべく商流を開きたいと要件を切り出した。地元の採水業者だ、乗ってくれるだろうと思っていた。ところが、幸太郎が話している間、堂本の表情に特段の変化は無く、しかも彼の次の発言ときたら幸太郎の話に乗るでもなく乗らないでもなく予想外のものであった。
 「佐々社長からそのようなお話を頂きまして大変恐縮です。最初に一点だけ申し上げておくべきことがございます。私共の天然水の商流は2種類ございます。一つは佐々社長がイメージされている私共の『金田の水』ですね。こちらは先日の第二工場稼働のタイミングで私共の通販サイトでの直販限定となりました。」
「ええっ?」



幸太郎は目の前が一瞬暗くなったように感じた。その反応を認めながらも構わず堂本は続けた。
「もう一つはOEMになります。もしかするとご存知かもしれませんが、大手のコンビニさんやスーパーさんのPBで天然アルカリ水がありますでしょう。あれらの多くが実は弊社の製品なんです。」



それを聞いた幸太郎はまたもや出遅れたかと思ったが、なんとか持ちこたえて話しを繋いだ。
「そうしますと、うちにもOEMという形で供給頂ける可能性があると?」
明らかに戸惑いの表情を見せる幸太郎を見た堂本は、自分の表情が嫌味ったらしく変化しそうなのを自覚し、次の伝えるべき要点へと話しを移した。
「今回の能力増強にて供給量には今のところ十分な余裕があります。しかしOEM供給となりますとラベルや輸送箱といったパッケージや物流の整備などを個別に実施することになりますので、年間最小ロットを設定させて頂いております。」
幸太郎は堂本の顔に少し嫌味さが表れてきたように感じ、所詮は田舎の会社なのだなという印象を持ち始めていたが、他に水のあてがあるわけでもなく渋々話しを繋いだ。
「大凡どれくらいの量と単価になるのでしょう?」
堂本は待ってましたとばかりの表情を一瞬見せたものの、わざとらしく声を潜めた。
「佐々社長、これは他言無用でお願いします。私共、普段はめったなことではOEMの話しを出すものではございません。他ならぬ佐々社長だからこそでございます。」
もったいっぶった手つきで電卓を取り出し長々とボタンを叩いた堂本は、自分と幸太郎しか居ない応接室にも関わらず電卓の画面を傍から覗かれないよう手で隠しつつ、恭しく幸太郎に見えるよう差し出してきた。その桁数をようやく確認した幸太郎は唸った。
「うーん・・・、これでは毎月が有事ですね・・・。」



黙ったまま恐縮した面持ちで深々と頭を下げた堂本だが、いよいよ彼の最終カードが切られようとしていた。
「最小ロットについては弊社の勝手な都合でございまして誠に恐縮でございます。折角でございますので2つめのご質問の単価も示したいと思いますが―――」
またしても電卓を叩いた堂本だが、今度はやけに早い。さっと幸太郎に画面を見せる。幸太郎は大きく仰け反ってしまった。
「なんと!こんなにお安いのですか!?」
そこには直販の「金田の水」の販売価格からは想像もつかないほど安価だ。こんな値段でKNTは採算が取れるのだろうか。アメリカ資本のホールセール店に行けば驚くほど安いボトル水が確かに売られてはいるし、卸価格から原価を推定すると堂本が提示した単価も不可能な数字では無いのかもしれない。ただ、ホールセール店の安価なボトル水は原水が現地の水道水だ。KNTの水は天然水ではないか。堂本は目を白黒させる幸太郎の反応を見るのを楽しみながら更に畳み掛けに入ろうとしていた。



「佐々社長、折角ですので弊社の新しい第二工場を見学なされませんか?おそらく弊社のホームページにアップしております動画もご覧頂いているかと存じますが、是非とも実際の様子をご覧頂きたいのです。」
未だに提示価格の衝撃から立ち直れない幸太郎であったが、堂本の後に付いて工場へと向かった。



まずは工場のエントランスロビーに置かれた大型ディスプレイを使いつつ堂本は饒舌に彼らの天然水の素晴らしさを説明した。説明によれば、地下数百mの辺りに花崗岩帯が存在していることが最大の利点であるとのことだった。地表に降り注いだ雨水はこの花崗岩によって数百年もかけて濾過されているとの説があるらしい。濾過されている間に不純物や微生物が除去されていくため、ここの天然水の品質は原水の時点でかなり品質が高いものになっており、ボトリング前の加熱殺菌が不要であることから風味が損なわれることがない。



「花崗岩というのは不純物を取り除いてくれるだけではございませんでして、適度なミネラルを地下水にもたらしてくれるんです。これが水の美味しさに繋がるわけです。一般的に花崗岩で濾過された水というのは商品価値を高く認められておりまして、それに纏わる事件が発生する場合もあります。」
堂本によれば、ある神戸界隈の地名を冠した天然水を販売していた大手の飲料会社が、同市内の別の採水地を追加し、同じ銘柄で販売していたたところ、新しい方の採水地には花崗岩帯が存在せず、同じ銘柄で売るべきではないとして排除命令を受けたことがあるという。人気の花崗岩濾過水の中でも、この金田の水は世界トップレベルの高品質だと彼は胸を張った。



次に幸太郎は精製工程に案内される。散々花崗岩濾過の話しを聞かされた後で精製工程を案内されるというのは妙な感じがした。それを読み取ったのか、堂本が説明を再開する。
「花崗岩で濾過されているとか、加熱滅菌が不要と言いましても、地酒の酒蔵のような感覚ではこのご時世やっていけませんでしてね。ボトリングの直前に高性能フィルターを通して最終の異物除去、菌体除去をしております。工場建設時のメインコントラクターによりますと、他の採水工場に比べるとうちの精製工程は物凄く小ぶりだということです。元々の水質に助けられているのですよ。設備費の減価償却が終わったり稼働率が高くなったりすれば固定費が下がりますから、うまく回れば水道水を精製してボトリングするより原価を抑えられる可能性もあるのです。これが先程示しました価格のカラクリです。あの価格でご提供するためには私共も稼働率を上げねばなりません。そこで年間最小ロット契約をお願いしている次第なのです。」



次にボトリング工程に向かった幸太郎は、完全に機械化・無人化された最新鋭の設備の様子に圧倒された。清浄な環境で目にも止まらぬ速さで水が次々にボトリングされていく。水愛の親会社の水産の工場でもここまで素晴らしい工程があるだろうか。
「この区画はクリーンルームになってまして見学の方には入室頂くことができませんので、このようにガラス張りにして見学し易いようにしております。もっともメインコントラクターによれば、うちの最大の見せ場は先程の簡素な精製工程だと言っていますがね。あのような簡素な精製設備でこれだけの品質のボトル水が得られるのは業界を震撼させる事態だということです。一般の方にはそれでは面白くありませんので、見学コースとしてはここが一番の見せ場ということになります。」



最後に案内された部屋は試験室であった。ここでは簡易試験の体験ができるという。ゲスト用の机にはここの天然水「金田の水」と他社のボトル水の合計5本が用意されていた。
「他社さんの水の銘柄は伏せておりますが・・・・」と言いつつ堂本は銘柄名を小声で幸太郎に耳打ちした。どれもよく知られたミネラルウォーターだ。今からゲストである幸太郎に硝酸態窒素の簡易試験の体験をやってもらうとのことであった。硝酸態窒素は近頃健康への影響が取り沙汰されている物質で、体内で発がん性を示す物質に変化するかもしれないという説もあるという。硝酸態窒素は肥料や屎尿が由来で、近年これらが地下水に混入するという問題が飲用水関係者を悩ませている。



「ここの水の採水ポイントはかなり深いですから、硝酸態窒素の心配もありません。今から佐々社長ご自身に簡易検査をして頂き、実際に体験頂きたいと思います。」
帽子とマスクのせいで目元しか見えないにも関わらず、とんでもない美人であることを隠しきれない検査員がゲスト用の机にやってきた。彼女から指示されるままに、幸太郎は硝酸態窒素簡易検査パックを取り出し封を切り、「金田の水」にパックの先を漬けた。すると少量の試料水がパック内に入った。これを「金田の水」のボトルの前に起き、他社品についてもそれぞれ同様の操作を実施した。時間が経つにつれ、他社品の水の入ったパックはピンク色に着色してきた。「金田の水」は無色透明を保っていた。検査員はその美しい声で色見本と色の濃さを比べることで、簡易的ではあるが大凡の水中の硝酸態窒素の濃度が分かること、色が濃ければ濃いほどその濃度も濃いこと、「金田の水」のように試験液が無色であればほとんど硝酸態窒素の汚染は無いことを説明した。結果が一目瞭然で分かるこの検査体験も幸太郎に強い印象を与えた。

見学が終わって応接室に戻る頃、堂本は幸太郎がそう遠くない未来に顧客になるであろうとの手応えを掴んでいた。
「私共の天然水はほとんど手を加えずとも高品質で、それ故に工場の稼働率を高くキープさえすれば人々に健康維持のベネフィットをリーズナブルに提供することができます。佐々社長、御社も是非私共の輪に入って頂ければと思っております。」



 帰りの車内で幸太郎は悩んでいた。広島の有事の際に十分な飲料水を提供できるだけの体制を構築したいとう当初の彼の思い、KNTの天然水の品質の高さ、とんでもなく安い単価、消費者の健康維持、そして年間最小契約ロットの問題・・・それらはベッドに入った後も彼の頭を離れないでいた。水愛のような小さな会社で莫大な年間最小契約ロットをどう捌くか、そこだけが、いやそれこそが問題であった。しかし彼の腹は既に決まっていた。
「よし、水産の力を貸してもらおう。」
水愛の従業員はほとんどが地元出身のプロパーだ。重要事項は幸太郎が自ら取り仕切ってきたが、今回のチャレンジは話が大きくなる。親会社から何らかの形で助っ人を貸してもらいたいと考えていた。つまり、幸太郎は彼の会社の規模からすると無謀なほど大量のミネラルウォーターを販売する決意を固めたのであった。

第3話に続く

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありませんが、今後の連載の参考となりそうな情報がございましたらお寄せ頂けると幸いです。

連絡先
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